死を覚悟した男の行動

私が「ぶっかけろ」なんて言うなんて

強襲

突如として現れたあいつは、私が指一本動かす事も許さないほど睨みつけ、私の体を凍りつかせた。

私は自分自身の生の終焉を覚悟した。

不思議と恐怖はなく、このまま切り刻まれても大した痛みを受ける事なく穏やかに逝けるのではないかと、考えてしまうほどあいつの眼力は私の生への執着を奪ってしまう力を持ちつつ、痛みを与えずにひと思いに処理してくれるような、そんな優しさをも秘めていた。
こんな時、人は走馬灯を見ると言うが、潔く死を受け入れたからか、私は昔の思い出が脳裏をよぎる事はなく、8年ぶりに都会から帰京した息子と親子水入らずで過ごした昨年のクリスマスの家族写真を見つめていた。

このままでは今年はクリスマスを越せない。。。。
昨年は、30歳を迎えた息子が好きだったシチューを熱いまま口にして、舌を火傷する騒ぎがあった。子供の頃から大好きなシチューを目にすると冷ますこも忘れて口に入れていつも妻に心配ばかりかけていたのに、30になっても変わらぬ息子を見て懐かしさが蘇り久しぶりに賑やかで楽しいクリスマスだった。

でも、このままではもう、息子にも会えない。そうだ、妻はどこだ?妻をあいつの犠牲にさせるわけにはいかない。

死を覚悟した刹那、大切なものを守らなければならない思いが私の意識を死の狭間から生還させた。
耳を澄ますと、わずかに音が聞こえる。妻は夫夕食の準備をしている。

あいつはすでに妻の気配に気づいているだろうか。
時計を見るともう夕食の出来る時間だ。
妻がこちらに食事を持ってくる頃合いだ。ここへ来させてはいけない。
しかし、今私がここで動いたり叫んだりしたら、あいつは私を襲い、続けて妻を襲うだろう。

なすすべかない。私は妻を助けられないのか?

必死に妻を助ける策を考えていたが、ついに妻が夕食の準備を終えこちらの部屋に入って来た。

あいつは一瞬私から視線を外して、妻の入ってくる扉に目を向けた。
私は今だと思い、大声で妻にして逃げるように叫んだ。

「ぶっかけろ!!」

あ、え!?ち、違う。逃げろだ。早く逃げろと妻に伝えなければ。
妻はまだあいつに気づいていない。
ドアの影に隠れて見えないのだ。妻は何のことかわからず動揺を隠せないでいる。

あいつが妻に気づいた。まずい!!
「あっちだ!ぶっかけろ!早くぶっかけろ!!」
何を言っているんだ私は?
妻が危険だ!逃げるように伝えなければ

「ぶっかけろジャネット!」

そして、妻はあいつにできたての熱々のシチューをぶっかけた。
このセリフが、この先の彼を幾度となく救うことになるのだが、それはまだ先の物語・・・

必読!「ぶっかけろジャネット!」